米国市場は、今後下げトレンドに入ると予想してQIDとDXDのベアETFを買い込んだのですが、ブルベアファンドについては以前から少し気に掛かっていることがありました。
..と言うのは、「ブルベアファンドは本質的に損をする金融商品である」と言う解説を散見することです。「ボラリティが高いので初心者には向かない商品」と言う解説であれば、依存はありません。しかし、「本質的に損をする特性を持つので、長期投資には向かない」と言われてしまうと、「そうじゃないんじゃない?」と疑念が浮かびます。
「本質的に損をする」と言う論者の根拠は概ね次の点に拠る様です。
1000円の株価が翌日1100円に上昇し、その翌日に1000円に戻った場合を考える。
このときの値動きは
1000円→1100円:10.00%アップ
1100円→1000円: 9.09%ダウン
です。これが2倍の値動きをするブルファンドの場合、
1000円→1200円:20.00%アップ(10.00%×2倍)
1200円→ 981円:18.18%ダウン( 9.09%×2倍)
となり、元に戻っただけの筈が、1000円→981円に目減りしてしまいます!
株価と言うのは元々上下しながら動くものであるから、長期になるほど、この累積損が
嵩み、損をしてしまう。
..と言う主張な訳で、確かにこれだけ読むと、かなり説得力があります。
しかし、往々にしてこの手の数字には計算上のマジックがあったりする訳で、これも盲信する前に中身を吟味する必要がありそうです。
そして、今回改めて考えてみた訳ですが、最終的には、「ブルベアファンドに本質的な不利益を導く構造は無い」と言う結論に至りました。(ある意味当然?)
さて、上記の論理展開ですが、どこに問題があるのでしょうか?確かに上の計算に間違いはないので、上の例のような値動きをすれば、この様な結果が得れます。問題は、「こんな値動きって本当にするか?」と言う点です。
まず前提ですが、ブルファンドの場合は、1日の単位で、対象の値動きに対して2倍の値動きをします。(以下、ベアファンドなら-1倍、ダブルベアならば-2倍と定義します。) ここで重要なことは、1日単位で増減率を清算している点にあります。
さて、冒頭の例では1日に10%上昇して翌日には同程度の下落している訳で、要するにストップ高とストップ安の連発みたいなもんです。一般に、ブルベアファンドのターゲットは何らかのインデックスですが、新興国のインデックスでもこんな値動きはありえません。普通は、±1%程度の値動きが続きます。
では、上記例と同様に1000円→1100円→1000円と言う同じ値幅の動きを、約10倍の日数を掛けて実現した場合を考えます。(上記例では1日10%程度変動させているので、10倍の日にちを費やせば、1日辺りの値動きは1%程度になります。)
即ち、
1000円→1010円→...→1090円→1100円→1090円→...→1010円→1000円
と動いた場合を考えます。このとき、日々の増減率を2倍にして計算してみると、最終的な値段は998円となります。結果を見ると、確かに1000円を割ってますが、割合にすれば0.2%に過ぎません。日々の変動を1%とするなかでの0.2%は十分に無視し得る減少幅です。
それでも尚、「この0.2%のマイナスが長期で積み上がり、結果的に無視できないのではないか?」と言う疑念は残ります。
しかし、ここでもう一つ考慮すべき事実があります。実は、冒頭の例題を説明する人は、ブルベアファンドの短所にのみ着目して、長所を無視しているのです。そこで、次の極端な例を考えます。
1000円の株価が翌日に1100円に上昇し、その翌日には1200円になる場合を考えます。
このときの値動きは
1000円→1100円:10.00%アップ
1100円→1200円: 9.09%アップ
なので、ブルファンドの場合は、
1000円→1200円:20.00%アップ(10.00%×2倍)
1200円→1418円:18.18%アップ( 9.09%×2倍)
となります。
注目すべきは、1400円ではなくて1418円になる点です。僅かですが、通常に対し、2倍以上の上昇率を示しています。これは複利効果に相当するものであり、前日の増益が2倍に増えたプラス部分に対して、翌日さらに利益が加算するために、この様な結果になります。つまり、
「ブルファンドの場合、一方向に価格が上昇する場合、利益率は2倍以上になる」
と言うことになります。
ここで、もう1つ例を示します。
今度は1000円が900円になり、更に800円に下がるケースを考えます。
このときの値動きは
1000円→900円:10.00%ダウン
900円→800円:11.11%ダウン
なので、ブルファンドの場合は、
1000円→800円:20.00%ダウン
800円→622円:22.22%ダウン
となります。
ここでも、ブルファンドの終値は600円ではなくて622円になっています。つまり、
「ブルファンドの場合、一方向に価格が下落する場合、減益率は2倍以下に抑えられる」
ことになります。即ち、利益は2倍以上で、損失は2倍以下となる訳で、これは美味しい話でしょう。
つまり、ここまでをまとめると、
「ブルベアファンドの場合、価格が一方向に推移する程、より利益が出やすく、
また損失も抑え易いと言うメリットがある。
逆に、価格に方向感が無く同一価格で価格がフラフラする場合、余分な損失が
生じるデメリットがある。」
と言うことです。
最後に考えるべきことは、上記メリットとデメリットがどの程度相殺し合い、最終的にメリットが多いのかデメリットが多いのかと言う点です。
この問題は相場の動き次第で結果が変わるものなので、ここでは次の条件を設けてシミュレーションを実行しました。
■シミュレーション条件
・1年の初値を100円とする。
・1日の値動きは前日比±1.25%の範囲で、全くのランダムに決定する。
・上で決まった変動率に対して、ブルファンドは2倍の値動きをする。
ベアファンドは-1倍、ダブルベアファンドは-2倍の値動きをする。
・1年間の取引日数を260日と考え、上記価格変動を260回繰り返す。この結果を
1年後の価格とし、通常ケースと、ブルファンド・ベアファンド・ダブルベア
ファンドのケースの、それぞれの1年後の終値を求める。
・上記計算を1000年分実行し、各ケースの1年後の終値の変動範囲を求める。
■シミュレーション結果
通常 ブル ベア ダブルベア
平均終値 99.69 99.37 100.29 100.57
標準偏差 11.56 23.26 11.66 23.67
中央値 99.03 96.78 99.64 97.92
この結果を簡単にまとめると、
・1年の初値と終値は年度で平均してしまうと、殆ど変わらない。
(1日の平均変動範囲である±0.625%以下となっている。)
・1年単位で見ると、通常の標準偏差が11.5程度を示している。これに対して
レバリッジ×2倍のブルとダブルベアは、(当然ながら)標準偏差が2倍となる。
簡単に言うと、これは、通常ケースでは100円でスタートした価格が、1年後には
約70%の確率で、88円~111円の価格範囲に収まることを示している。
一方、ブルとダブルベアの場合は約70%の確率で76円~123円の価格範囲に収まる
ことを示している。
・中央値を見ると、レバリッジ×2倍のブルとダブルベアの場合に、初値に対して
約2%~3%程度下回っている。平均値は初値と終値に違いが無いことから、頻度的
には終値が初値を下回る場合が多いが、上回った場合はそのプラス幅が大きいと
考えられる。
以上、長々と論じましたが、結論的には
「ブルでもベアでも構造的な損得は無い」
と言うことになります。なので、ブルベアファンドを長期投資に用いても全く問題ありません。そもそも、投資信託を買うということは、長期的に投資対象の価値が増す(ベアを買う場合は減る)と考えて投資を行うことに他なりません。長期的な見通しに確信があるのであれば、ブルやベアを買うという選択も十分にアリでしょう。
特に、ベア・ダブルベアファンドには次の様な利点もあります。
・信用取引口座が無くても売りから入れる。
・通常の空売りは損失が無限大であるのに対し、ベアファンドならば最大損失を
購入費以内で抑えることが出来る。
従って、初心者向きとは言いませんが、信用取引へ進む前の入門としてブルベアファンドを活用するのは一つの方法です。
尤も、日本で設定されているブルベアファンドは往々にして購入手数料・信託報酬が高いことがあるので、その点での注意は必要です。信託報酬の高いファンドは長期投資には向きませんし、手数料の高いファンドは短期売買に向きません。まぁ、信用講座を作ってETFを空売りした場合にも、手数料と貸株料が取られる訳ですし、信用買いした場合にも金利が発生します。一種の信用取引をしようとする以上、ある程度のコストは許容しなければならないと言うことかもしれません。
最も理想的な方法は、海外証券口座を開いて、ブルベアの特性に設定されたETFを買うことです。これだと、コストを大幅に下げることが可能です。
海外にある様々なブルベアETFについては、別エントリーで触れたいと思います。