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一番売れてる株の雑誌ZAiが作った「株」ゲーム

zai_game_01.gif読んで字の如く、マネー雑誌ZAIが作成した株取引をテーマにしたボードゲームです。正直、これ程までにダサいネーミングのゲームを見るのは初めてです。^^;
以前より、このゲームのレビューだけは当ブログで書かなければならないと言う、勝手な使命感だけはあったのですが、ようやくそれを記すことにします。

さて、いきなりこのゲームの評価ですが、一言で言って「惜しい!」

日本国内で商業ベースとして販売されるボードゲームで、まともなものは全て外国製。日本製のゲームは評価にも値しないと言うのが、偽らざるところ。
そういう意味で、このゲームは間違いなく日本製でありながら、そのゲームメカニクスの中にもオリジナリティが確かに感じられます。これだけでも、正直評価できる内容です。

では何が「惜しい」のか? それは、ゲームのデベロップメントが甘いのです。基本アイデアに独創性があり、ゲームとしての素性も悪くない。しかし詰めが甘く、ゲームバランスを損なう部分が存在しています。発売時期を急ぐ余り、テストプレイ時間が十分に取れなかったのかもしれません。以下、その詳細を述べてみます。


■ゲームの概要

ゲームボードの外周にはモノポリーの様にマスが設けられており、更にこのマスにコースカードと呼ばれるカードを配置すると、ゲームボードが完成します。このギミックにより、ゲーム毎に異なるボードで遊ぶことが可能になります。

この様な仕掛け自体はオリジナルとは言えませんが、工夫が感じられるのがコースカードが赤と青に色分けされている点。この赤がブル相場を表し、青がベア相場を表し、外周の1周が1年間を表すのですが、この赤と青の分布を俯瞰して見ることで、1年間の何処でベアが来てブルが来るのか、相場の流れを予測することが可能になる様になっています。

手番のプレイヤーはサイコロ(通称ZAIコロ^^;)を振り、出た目の数だけ時間駒と呼ばれる駒を上記コース上で移動させます。即ち、一般的なゲームのように、プレイヤーは自分用の駒を持っておらず、単に時間の流れを表す駒を移動させることが出来るだけです。そして、この時間駒がコースを1周すると1年経過。2年経過するとゲーム終了となります。

各プレイヤーは自らの手番であるか否かに関らず、サイコロが振られる毎に株の売買を行うことが出来ます。即ち、株式の売買の機会は常に全プレイヤーに平等に与えられます。これは、実際の株取引に近づける処置だと思われます。尚、株を買うのも売るのも、一部の例外を除いて、基本的にプレイヤーの自由です。但し、株の売買には手数料が発生します。この手数料のルールはゲームに無駄にリアリティを持たせるだけのものでは無く、ルール上有意な仕掛けになっています。

そして、このゲームには全部で9つの上場企業が登場します。更に、この9つの企業は、安定企業・普通企業・通常企業の3種に分類されます。要するに安定企業は株価の安定した、損もし難い代わりに儲けも出し難い会社。逆に変動企業は値動きの激しい新興企業。普通企業はその中間を表します。尚、変動企業だけは配当金が支払われません。
(企業の中にカブト自動車が在るのは、「気まぐれコンセプト」のファンには嬉しい所。出来れば白くま広告社も欲しかった。)

サイコロが振られる毎に時間駒が移動し(注:0の目が出た時は動かない)、移動先のマスに従ったイベントが実行されます。例えば、時間駒が赤(ブル相場)のマスに止まると、ブルのイベントが発生し、基本的に株価が上昇します。青はその逆。

さて、このゲームを最も評価できる点は株価変動の仕組みにあります。このゲームでは1つの企業の株価を、実際の株価と理論株価の2つで表現するのです。そして、実際の株価は理論株価に近づく方向に推移する特徴を持っています。要するにこれはバリュー投資の概念であり、理論株価と実際の株価が乖離するほど、上昇余地(又は下落余地)のある株式を表すことになります。

この2つの株価の併せ持つシステムは、私の知る限り海外の作品でも見たことがありません。ボードゲームとしては非常に独創的なアイデアであり、かつ有用なメカニクスとして評価に値すると思います。


このシステムを利用して、プレイヤーは株価の上昇と下落を予測し、株式のトレーディングを行いキャピタルゲインを稼いで行きます。また、1年の内には中間決算と本決算の2回があり、ここでは配当金が支払われ、インカムゲインを獲得することが出来ます。

そして最終的には、2年目の本決算が終了した時点で資産総額が最も高いプレイヤーが勝者となります。


zai_game_02.jpg■ゲームの戦略について

基本的には理論株価と実際の株価が乖離した、株価上昇余地の高い銘柄を仕込み、キャピタルゲインを狙うべきです。また中間決算と本決算では確実にインカムゲインを獲得することも重要です。
実際と同様に、分散投資を図ることは極端な損失を抑える効果がありますが、その分、大きく利益を出すことも出来ません。従って、負けそうになったら、少数銘柄に集中投資する手は有用です。


■問題点について

ここまでは、比較的好意的な記述を続けてきましたが、本ゲームにはボードゲームとして評価するときに、幾つかの問題点があり、そのなかの幾つかは、決して小さい問題ではありません。以下、問題点を列挙して見ます。

(1) 配当金が支払われても、株価の配当落ちがありません。即ち、ほぼノーリスクで
  インカムゲインを得ることが出来ます。決算期が近づいてきたら、ポートフォリオ
  を好配当銘柄に偏らせることが有効になってしまいます。
  
(2) 株価の変動がドラスティックすぎます。株価を変動させる場合、基本的にサイコロを
  振って、出ために応じて株価を上下させます。しかし、この変動幅が如何見ても大き
  過ぎます。結果的に、理論株価と実際の株価の乖離が極端に大きくなることが頻繁に
  ありました。この辺りが、テストプレイが甘いのではと感じる所です。
  
(3) プレイヤーの意思を相場の上下に反映させる術が無い。これはある意味で、デザイン
  上の思想なのかもしれません。確かに、個人投資家が自らの売買で株価を操作する
  ことなど不可能な訳で、ゲームにリアリティを持たせようとすると、マーケットの
  動きに対してプレイヤーを受動的に置くしかありません。しかし、プレイヤー同士が
  競うボードゲームとしては、戦略性が欠如したものになってしまいます。極端な話、
  他のプレイヤーの売買を真似て取引することも可能であり、一旦リードしたプレイ
  ヤーの逃げ切りが容易なゲームシステムと言えます。トップのプレイヤーに2位の
  プレイヤーと同じポートフォリオを組まれたら、まず逆転は出来ません。保有株を
  他のプレイヤーからは隠せるようにすべきだったかもしれません。
  (注:厳密には取引手順の関係で完璧にまねる事は出来ないのですが、概ねは可能
  です。)

(4) イベントの中にゲームの状況を一変させる、極端なものが存在します。その1つが
  「サドンデス」と言うイベント。これが発生すると、実際の株価が理論株価より一定
  以上安く放置されている企業が倒産してしまいます。^^;
  これを回避するためには、極端に割安な銘柄への投資を控える必要がある訳で、これ
  はこれでルールとして成り立ちます。しかし、問題は(2)で述べた株価変動が極端
  過ぎる点。直前で株価が大きく下げた所に、このイベントが発生すると、大半の
  企業が倒産してしまいます。正に大恐慌ですが、そんな状態が頻繁に発生する様では
  ゲームとして成立しません。私のプレイでは1ゲームにこれが2回も発生しまし
  た。どう見てもテストプレイの不足としか思えません。


■まとめ

このゲームの最大の問題点は、中途半端に「株取引を学ぶ」と言う、学習要素を取り入れようとした点にあるように思います。「遊びながら学べる」と謳うゲームに面白いものは無いという定説に従って、本ゲームでも面白さを割り引かせる結果になったと思います。

最後に、このゲームは買うべきなのか否か? まず、初心者が「株取引をゲームで学びたい」等と思って購入を検討するのであれば止めておいたほうが良いでしょう。そのお金で、ミニ株を実際に買った方が余程ためになります。

一方、ボードゲーマーな方(特にコレクターな方)は、このゲームは買っておくべきかもしれません。恐らく、本ゲームは初版を売り切ったところで、二度と再販されることはありません。その点で、入手不能になる前にコレクションとして仕込んでおく価値はあると思います。
プレイ上、オリジナルルールのままでは厳しいところのあるゲームですが、バリアントルールを上手く追加出来れば、案外化けるゲームかもしれません。

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2008年05月16日 01:42に投稿されたエントリーのページです。

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