著者は言わずと知れた、インデックスファンドの生みの親にして、バンガード社の創業者、ジョン・C・ボーグル。まぁ、インテックス教の信者にとっては、「教祖」というか「生き神様」にも相当する人物です。
本書の原題は"The Little Book of Common Sense Investing"で、これを「マネーと常識」と訳したところに訳者の苦心が感じられます。コモンセンスと言う概念は日本人には理解し難いものですが、単なる常識ではなくて、その常識を生み出すための更なる土壌みないなものと考えれば良いでしょう。「投資のための常識の常識」として、ボーグルは語ったものであり、本書の全編に、ボーグルの信念が満ちています。良く言えば、本書で語られる内容を普遍の真理としてボーグルは心底から信じているのだと思います。
しかし、穿った見方をすれば、本書は全編に渡る、バンガード創業者としての壮大なポジショントークであると見ることも出来ます。恐らく、その辺りはボーグル自身も感じているんでしょう。そこで、本書の随所には「私のことはを鵜呑みにするな」と言う著名人のコラムが挿入されています。「ほら、私だけが言っているんじゃ無いでしょ。だからポジショントークじゃ無いんだよ」ってボーグルは言いたいワケ。
本書の前半2/3は、所謂インデックスファンドの優位性の記述で占められています。主な主張は次の通り。
・長期的に成長する企業を予め見つけることなんて不可能。
・長期で市場平均に勝とうなんてムリムリ。
・確実なのはコストを抑えられるだけ抑えること。
・アクティブファンドなんてコストが高いだけの無用な長物。
・税金もコスト。短期売買してその度に納税するなんてナンセンス。
・フィナンシャルプランナーなんて無駄な輩に余計なコストを払うな。
・黙って(バンガードの)インデックスファンドえば皆幸せ!
要するに従来からの主張と変わるところは無く、インデックス投資について既に書物を読んだことがある人には、新たな発見は無いと言って良いでしょう。(もちろん私も、主張として正しいと同意してます。ハイ。)
一方、後半1/3は最新の投資事情が加味された話になり、面白いといえば面白い。逆に言えば、「これって如何見てもポジショントークじゃねーの?」って、突っ込み所満載です。
ポイントは2つあって、アクティブインデックスに関する部分と、ETFに関する部分。どちらもバンガードとしては他社に遅れを取った分野だけに、ボーグルが如何に評するかは興味のあるところ。
詳細は原書で確認して頂きたいが、結論的にボーグルは、何れに対しても否定はしないながらも斜に構えた姿勢を取っています。しかし、頭から否定するだけの根拠も無く、その主張には如何にも苦しい..。(この苦しい言い回しが本書の読み所かも。^^;)
特に苦しいのがETFをショットガンに例える下り。「猛獣を狩るにも使える一方で、自殺にも使える」と言う主張なワケですが、例え話としてもあまり適当じゃない。要は「薬になれば毒にもなる」と言う話ですが、如何なるテクノロジーも使い方を誤れば害を成す訳で、内在する負の部分を特に強調し過ぎるのは、ポジショントーク以外の何物でもないかと..。
【評価】
インデックス教の教徒は信仰を深める為にも、一読しないといけません。一方、テクニカル教徒やファンダメンタル教徒の人がこれを読んでも、改宗に至ることはないでしょう。
危ないのは、無垢な投資初心者の方。盲目的に信じ易い人は読み方に注意が必要。一気に入信してしまう可能性も。
理想的な読み方は、一定の投資知識のある人が、大人の事情も理解しつつ、ボーグル先生の主張に対峙する気持ちを忘れずに読むことではないかと思います。
おすすめ度:★★★☆☆