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書評 アーカイブ

2007年11月07日

書評の評価基準について

書籍は常に読んでいないといられない性質で、投資本の類も結構エライ勢いで読んでたりする訳ですが、歳のせいか記憶力がかなり怪しく、読んだ端からトコロテン式に忘れて言ってる気がしなくもない。orz

そこで、今後は読んだ本の感想を記録代わりに出来るだけ記しておくようにしたいと思います。..で、どうせ感想を書くなら、生意気であろうと、最後に評価らしきものは付けてみたい。(お金出して読んだ本なんだから、個人的な評価点位は付けてもバチは当たらんでしょう。)

そこで評価基準ですが、以下の5段階で評価してゆくことにします。

 (1) ★★★★★ 読んでよかった!万人に勧めたい。
 (2) ★★★★☆ 自分的には役に立った。万人にはどうか?
 (3) ★★★☆☆ まあまあ読む所あり。興味のある人はどうぞ。
 (4) ★★☆☆☆ 時間の無駄だったかも。特に勧めません。
 (5) ★☆☆☆☆ 役に立たないor害を成す。酷すぎて話のネタに...。

マネーと常識 /ジョン・C・ボーグル

著者は言わずと知れた、インデックスファンドの生みの親にして、バンガード社の創業者、ジョン・C・ボーグル。まぁ、インテックス教の信者にとっては、「教祖」というか「生き神様」にも相当する人物です。
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本書の原題は"The Little Book of Common Sense Investing"で、これを「マネーと常識」と訳したところに訳者の苦心が感じられます。コモンセンスと言う概念は日本人には理解し難いものですが、単なる常識ではなくて、その常識を生み出すための更なる土壌みないなものと考えれば良いでしょう。「投資のための常識の常識」として、ボーグルは語ったものであり、本書の全編に、ボーグルの信念が満ちています。良く言えば、本書で語られる内容を普遍の真理としてボーグルは心底から信じているのだと思います。

しかし、穿った見方をすれば、本書は全編に渡る、バンガード創業者としての壮大なポジショントークであると見ることも出来ます。恐らく、その辺りはボーグル自身も感じているんでしょう。そこで、本書の随所には「私のことはを鵜呑みにするな」と言う著名人のコラムが挿入されています。「ほら、私だけが言っているんじゃ無いでしょ。だからポジショントークじゃ無いんだよ」ってボーグルは言いたいワケ。

本書の前半2/3は、所謂インデックスファンドの優位性の記述で占められています。主な主張は次の通り。

 ・長期的に成長する企業を予め見つけることなんて不可能。
 ・長期で市場平均に勝とうなんてムリムリ。
 ・確実なのはコストを抑えられるだけ抑えること。
 ・アクティブファンドなんてコストが高いだけの無用な長物。
 ・税金もコスト。短期売買してその度に納税するなんてナンセンス。
 ・フィナンシャルプランナーなんて無駄な輩に余計なコストを払うな。
 ・黙って(バンガードの)インデックスファンドえば皆幸せ!

要するに従来からの主張と変わるところは無く、インデックス投資について既に書物を読んだことがある人には、新たな発見は無いと言って良いでしょう。(もちろん私も、主張として正しいと同意してます。ハイ。)

一方、後半1/3は最新の投資事情が加味された話になり、面白いといえば面白い。逆に言えば、「これって如何見てもポジショントークじゃねーの?」って、突っ込み所満載です。

ポイントは2つあって、アクティブインデックスに関する部分と、ETFに関する部分。どちらもバンガードとしては他社に遅れを取った分野だけに、ボーグルが如何に評するかは興味のあるところ。

詳細は原書で確認して頂きたいが、結論的にボーグルは、何れに対しても否定はしないながらも斜に構えた姿勢を取っています。しかし、頭から否定するだけの根拠も無く、その主張には如何にも苦しい..。(この苦しい言い回しが本書の読み所かも。^^;)

特に苦しいのがETFをショットガンに例える下り。「猛獣を狩るにも使える一方で、自殺にも使える」と言う主張なワケですが、例え話としてもあまり適当じゃない。要は「薬になれば毒にもなる」と言う話ですが、如何なるテクノロジーも使い方を誤れば害を成す訳で、内在する負の部分を特に強調し過ぎるのは、ポジショントーク以外の何物でもないかと..。


【評価】

インデックス教の教徒は信仰を深める為にも、一読しないといけません。一方、テクニカル教徒やファンダメンタル教徒の人がこれを読んでも、改宗に至ることはないでしょう。
危ないのは、無垢な投資初心者の方。盲目的に信じ易い人は読み方に注意が必要。一気に入信してしまう可能性も。
理想的な読み方は、一定の投資知識のある人が、大人の事情も理解しつつ、ボーグル先生の主張に対峙する気持ちを忘れずに読むことではないかと思います。

おすすめ度:★★★☆☆

2007年12月03日

亜玖夢博士の経済入門 / 橘 玲

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「臆病者のための株入門」の著者、橘玲氏の新作です。何だか不思議なタイトルですが、"経済入門"とされているので、マネー解説本の一種と思い込み易いのですが、実際は小説と見なした方が良い内容です。そういう意味では、橘氏のデビュー作である「マネーローンダリング」以来の久々のストーリー物が登場したということに成ります。

さて、内容的には物語だと思うものの、構成は変則的と言うか多分に実用書的。物語は章立てになっており、各章ではテーマに即した突拍子も無いショートストーリーが展開します。そして、各ショートストーリーが全体の更に突拍子も無いストーリを紡ぎ上げて行くと言う仕掛けです。

..で、ポイントになるのはやはり橘氏らしい各章のテーマ。それぞれ、"行動経済学"であったり、"ゲーム理論"、"ネットワーク論"だったりします。そして、最後には"ゲーデルの不完全性定理"までも、話が発展して行きます。

「臆病者のための株入門」でもそうだったのですが、橘氏の著作の醍醐味は、本来であれば難解な論理展開を適当に要約してしまい、本質的に知っておくべきところだけを抽出して提示してくれるところにあります。中間の論証はあくまでもおまけ。あえて厳密性を排除することで、話を判り易く読者に展開してくれます。

即ち、「臆病者のための株入門」が現代ファイナンス理論をそのエッセンスだけを抽出して平易に提示していたのに対し、「亜玖夢博士の経済入門」ではこれを他の数理学の範囲まで広げて見せたものと言う事ができます。
従って、本書は基本的に投資や資産形成に役立つ本ではありません。では何かと言えば、より広い意味で、「人が生きてゆく上で知っておいた方が良いこと」、「知っておくことで生き方が変わる可能性があること」について説明している本であると言う事ができます。

私が感じるに、著者が本書に込めた最大のポイントは、最終講の「ゲーデルの不完全性定理」にあると思います。さしもの橘氏も「不完全性定理」の解説を平易に行うことは難しかった様ですが、「不完全性定理」を以って「人類の希望」と評している点こそが、著者が読者に伝えたかった点であると確信しています。そう「この世界に完全なものなどない」のです。


【評価】
(私を含めて)橘氏のファンであれば必読の一冊です。本書から得られる事柄は、人それぞれ違うかもしれませんが、それでも何かを残してくれるであろうことは疑いありません。
また、橘氏の著作に触れたことがない方でも、純粋に読み物としてみて十分に面白い一冊かと思います。特に、過去にブルーバックスを好んで昔読んだ経験のある人にはフィットする一冊ではないでしょうか。
逆に、厳密な論証が必要な純理学系の人には本書はあまりお勧めできません。また、投資本として本書を手にすることは完全に間違いですので注意して下さい。

最後に、敢えて本書の内容をを投資と結びつけるとしたら、「不完全性定理」ではないかと思います。以下、あくまでも個人的な考えですが、ゲーデルの不完全性定理(あるいはハイゼンベルクの不確定性原理)の様な、論理学的な(物理学的な)絶対性を否定する真理は人類の未来に対する自由性を保証してくれる、正に「人類の希望」です。そして私はこれらの理論を尊重するが故に、マルキール等が唱える「効率的市場理論」を如何しても信奉することが出来ないでいます。

おすすめ度:★★★★☆

2007年12月05日

人生後半戦のポートフォリオ / 水木 楊

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タイトルだけで判断すると、如何にも退職後の資産運用のアドバイスを目的とした書籍だと思ってしまいますが、それは早合点。本書の副題は「時間貧乏からの脱出」となっており、時間の有効活用を説くものです。

まぁ、「時間の活用」をテーマにした本は色々とあるとは思うのですが、本書が特徴的なのはバランスシートの考え方を導入している点。そして、ここで考えるバランスシートは、会計上のBSとは一味違ったものになります。ここが著者の最大の主張なのですが、「カネとモノに時間を加えてバランスシートを考えなさい」という話。
人間は自らの自由時間を会社に売ってサラリーであるカネを得て、それを使ってモノを買う。逆に言えば、モノを我慢すればカネも要らないし、その分だけ好きなことをする自由時間が増えることになります。

要はカネ・モノ・時間はトレードオフされる関係にある。どれに重点を置くかはその人の考え方次第かもしれない。でも、常識的に考えれば、3者のバランスを取って生活を行うことが、人生を有意義に過ごすことに繋がるだろうと言うワケ。

本書ではこのバランスを取るための考え方のヒントが述べられています。そのスタートとして最も重要なことは自らの自由時間の金額換算した価値を知ること。自分の持つ1時間の価値(要するに自給みたいなもの)が幾らなのかを知ることだけでも、生活の組み立て方が大きく変わる可能性を秘めています。

例えば、時給が5000円の人が居たとする。この人がタクシーを使うことで1時間早く目的地に着けるとすれば、タクシー代は3000円でも高くないことになる。同様に、メイドさんを雇うことで家事に割く時間が節約できるなら、節約できる時間の価値とメイドさんに払う給与を天秤に掛けて、その意味のあるなしを考えれば良いって言うこと。


【評価】

個人的に時間の考え方を見直す良い契機になったことで、読む価値があったと思っている作品です。只、万人に進められるかと言うと、必ずしもそうではなくて、読者の年齢を選びます。タイトルには「人生後半戦の」と記されていますが、本書を読んで最も有益なのは仕事が多忙を極める30歳以降の方でしょう。20台の方が読んでも無駄とは思いませんが、ピンと来ない部分があるかもしれません。逆に、「人生後半戦」と言っても、定年を過ぎて年金暮らしの方が読んでも、もはや得られるものは少ないと思われます。

おすすめ度:★★★★☆

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