「アンシール・コンテンポラリー」で現代アートのイロハから教わる中で、「アートは誰でも買うことは出来るが、基本的に1点物であるため欲しいからと言って何時でも買えるものではないこと」を今更ながら理解しました。そして、人気のある作家さんの作品であれば、個展開催と同時に瞬時に売れてしまうことを知りました。
では、自分が気に入った指田菜穂子さんの作品は如何だったかと言うと、当時まだ無名でしたので作品の争奪戦はありませんが、それでも私の様に作品を気に入る人はそれなりに居たらしく、購入可能な作品としては1号(縦約20cm)ほどの小作品が数点残るのみでした。さてどうしようかと案じていた所、オーナーから「売約済みで納品待ちの作品ですが、良かったら見てみますか」と言われ、見せて貰えたのが40号(縦約1m)の大作だったのですが、これを見た時の衝撃は忘れられません。その瞬間、なんとしてもこういう物が欲しいと思いました。
さて、欲しい気持ちは一段と高まったのですが、肝心の購入可能な作品がありません。そこで、「次回の個展に向けて制作する作品を1点予約する」と言う、初心者としては考え難い暴挙にでました。未だこの世に存在しない作品ですから、本当に作品として気に入るかも判らないまま購入を約束した訳であり、加えて、その大きさは40号と言う、初心者が初めて購入する絵画としてはかなり大きな作品です。それを値段も判らないまま、購入を約束をしてしまいまった訳ですから、普通に考えて常識外な行動なのですが、自分の中ではこの作家さん作品であれば、気に入ることは間違いないと言う確信の様なものがありました。
そうして、待つこと半年~1年(どれくらい待ったのか忘れました..。)初めて手に入れたアート作品が、つぎの「共同幻想」です。長い間、待っただけの価値がある、大変素晴らしい作品を手に入れることが出来ました。
中央のデカルトを祭った仏壇のモチーフが強烈ですが、その周辺には宗教やイデオロギー等の、真の価値は不明確にも関わらず「共同幻想」によって成り立っている物々が緻密に描かれています。解釈はいろいろ出来ると思いますが、指田菜穂子さんにとっては、魔よけの柊も、盛り塩も、ビートルズや巨人阪神戦に熱狂する人々も、ヴィトンやカルチェのバックも、全て人々が共同で抱く幻想によって価値を成らしめる物に過ぎないことを示していると自分は読み取っています。
1つのテーマに沿って関連する人や物を緻密に書き込む独特なスタイルが指田菜穂子さんの特徴であり、それは今でも変わっていません。その後、指田菜穂子さんは現代アート画廊では最も老舗の「西村画廊」に移籍され、その作品は現代アートのパブリックコレクションといては日本一の「高橋コレクション」にも収蔵されるなど、活躍を続けています。2012年には第4回絹谷幸二賞奨励賞を受賞され、2014年には上野の森美術館で行われる若手現代アート作家の登竜門であるVOCA展への出展も果たしました。
すでに、指田菜穂子さんは無名の新人作家ではなく、新進の若手作家に成長されました。その分、作品のプライスも上がってしまい、既に自分が手を出せる価格帯では無くなってしまったのが残念ではありますが、今後の更なる飛躍を期待して止みません。