今回から2回に分けて、自分がグリーンファーム会員になった2013年度以降の募集馬に関して傾向分析を行ってみたいと思います。そして、その分析の切り口として「募集馬のプレミアム」と言う概念を導入します。
※今回の分析はサンプル数の少なさから統計的にはヨタ話の域を出るものではありません。飽く迄も一つの結果として参考程度に留めて下さい。
始めに今回の分析のベースとなるプレミアムの考え方について説明します。まず、競走馬の生産者の立場で考えたとき、募集馬の値付けの根拠は次の様に分解が可能と考えられます。
募集価格=2歳までの育成費用+種付料+プレミアム+相場変動額
ここでまず、2歳までの育成費用は固定であると考えることにします。実際は社台系牧場と小牧場では人件費や設備費などが異なる筈ですが、これを推定する情報がありませんので、今回は固定費として一律1000万円とします。
募集価格=種付料+プレミアム+相場変動額+1000
つぎに種付料と募集価格はは公開情報ですので、募集馬のプレミアムは次のように求めることが出来ます。
プレミアム+相場変動額=募集価格-種付料-1000
更に、募集馬のプレミアムは次の2つの要素に分解できると考えられます。
プレミアム=性別のプレミアム+その他のプレミアム
このうち、性別のプレミアムは一般に牡馬の方が牝馬より高い考えられるので、本分析では「牡馬の方が牝馬よりも200万円価値が高い」と考えることにします。
その他プレミアム+相場変動額=募集価格-種付料-性別のプレミアム-1000
以降、上式の「その他のプレミアム」を、改めて単に「プレミアム」と略して表記します。このとき、アースサウンドの2017を例にして計算を行うと、募集価格が2500万円、種付料が600万円、性別のプレミアムが200万円なので、
プレミアム+相場変動額=2500-600-200-1000=700万円
と求められます。以下、この「プレミアム+相場変動額」を今年の募集馬(18頭)について計算した結果を示します。
馬名 | 募集価格 | 種付料 | 性別 | プレミアム+ 相場変動額 |
バルドウィナの17 | 3000 | 250 | 0 | 1750 |
アースサウンドの17 | 2500 | 600 | 200 | 700 |
オンジジュームの17 | 1800 | 250 | 0 | 550 |
デビルズコーナーの17 | 1800 | 80 | 200 | 520 |
ナショナルホリデーの17 | 2000 | 500 | 0 | 500 |
リボントリコロールの17 | 1800 | 300 | 0 | 500 |
ジュエルオブナイルの17 | 1600 | 200 | 0 | 400 |
ファビュラスセンスの17 | 1400 | 30 | 0 | 370 |
デフィニットの17 | 1800 | 250 | 200 | 350 |
ラヴアズギフトの17 | 1400 | 80 | 0 | 320 |
アースリヴィングの17 | 2000 | 600 | 200 | 200 |
ジャドールの17 | 1600 | 200 | 200 | 200 |
ムニラーの17 | 1600 | 300 | 200 | 100 |
カクテルの17 | 1500 | 250 | 200 | 50 |
トロピカルブラッサムの17 | 1000 | 100 | 0 | -100 |
ガヴィオラの17 | 1000 | 250 | 0 | -250 |
マウントフジの17 | 800 | 100 | 0 | -300 |
エイシンバンバの17 | 0 | 50 | 0 | -1050 |
ここで、算出された「プレミアム+相場変動額」について、最大値と最小値を除外した平均値を計算すると257万円と求められます。そして、この平均値は当該年のマーケットが好況の時は高く、不況の時は低くなる数値です。即ち、この平均値を年度毎の相場変動額とすれば、募集馬のプレミアムは最終的に次式で求められます。
プレミアム=募集価格-種付料-性別のプレミアム-相場変動額-固定費
具体的にアースサウンドの2017のプレミアムを求めると、2500-600-200-257-1000=443万円と算出されます。
そして最終的に得られたプレミアム値が固定費1000万円に対して+20%以上の募集馬(即ち200万円以上の仔馬)をプレミア馬、反対に-20%未満の募集馬(即ち-200万円未満)をディスカウント馬、その中間の募集馬をノーマル馬と呼称するものとします。
以下、2013年度以降のグリーンファーム募集馬についてプレミアム値を計算した結果を次の表に示します。このとき、プレミア馬は青文字で、ディスカウント馬は赤文字で表示しています
更に本表には、当該馬の生涯最高出走レースを併せて示します。(◎:オープン,○:準オープン,▲:1000万,△:500万,×:未勝利,□:未確定)なお、現在未勝利の3歳馬は未勝利と扱い、未勝利の2歳馬は未確定としました。
年度 | 馬名 | 最高成績 | 募集価格 | プレミアム |
2018年 | バルドウィナの17 | □ | 3000 | 1493 |
2018年 | アースサウンドの17 | □ | 2500 | 443 |
2018年 | オンジジュームの17 | □ | 1800 | 293 |
2018年 | デビルズコーナーの17 | □ | 1800 | 263 |
2018年 | ナショナルホリデーの17 | □ | 2000 | 243 |
2018年 | リボントリコロールの17 | □ | 1800 | 243 |
2018年 | ジュエルオブナイルの17 | □ | 1600 | 143 |
2018年 | ファビュラスセンスの17 | □ | 1400 | 113 |
2018年 | デフィニットの17 | □ | 1800 | 93 |
2018年 | ラヴアズギフトの17 | □ | 1400 | 63 |
2018年 | アースリヴィングの17 | □ | 2000 | -57 |
2018年 | ジャドールの17 | □ | 1600 | -57 |
2018年 | ムニラーの17 | □ | 1600 | -157 |
2018年 | カクテルの17 | □ | 1500 | -207 |
2018年 | トロピカルブラッサムの17 | □ | 1000 | -357 |
2018年 | ガヴィオラの17 | □ | 1000 | -507 |
2018年 | マウントフジの17 | □ | 800 | -557 |
2018年 | エイシンバンバの17 | □ | 0 | -1307 |
2017年 | アスティ | □ | 2400 | 505 |
2017年 | ガーデンコンサート | □ | 2000 | 405 |
2017年 | スターオブザナイル | □ | 2000 | 305 |
2017年 | ライクトゥシャイン | □ | 1800 | 205 |
2017年 | アースビルボード | □ | 2000 | 105 |
2017年 | サムシングジャスト | △ | 1500 | 105 |
2017年 | クワドラード | □ | 1400 | 55 |
2017年 | ファストアズエヴァー | △ | 1200 | 5 |
2017年 | アーチザンバレット | □ | 1600 | -15 |
2017年 | ファビュラスギフト | □ | 1200 | -45 |
2017年 | ハートビートダンス | □ | 1800 | -95 |
2017年 | スターリーパレード | □ | 1200 | -145 |
2017年 | アルジェンタータ | □ | 1600 | -295 |
2017年 | レコルダーレ | □ | 1000 | -295 |
2017年 | レガーロブロッサム | □ | 1400 | -295 |
2017年 | プランタンヴェール | □ | 800 | -595 |
2016年 | エトワールドパリ | △ | 1800 | 440 |
2016年 | シャンボールナイト | △ | 2000 | 340 |
2016年 | トラベリング | ▲ | 1800 | 340 |
2016年 | シネマソングス | △ | 1800 | 240 |
2016年 | ルコンセール | × | 1400 | 220 |
2016年 | リンデンブリューテ | × | 2000 | 140 |
2016年 | レーヌルネサンス | × | 2000 | 140 |
2016年 | フリージアスター | × | 2000 | 140 |
2016年 | ピオレドール | △ | 1500 | 120 |
2016年 | アメリカンツイスト | △ | 1400 | 90 |
2016年 | エンペラーズベスト | × | 1400 | 40 |
2016年 | ジョリーリュバン | × | 1400 | -60 |
2016年 | ディアブライド | × | 1200 | -160 |
2016年 | シングシングシング | △ | 1000 | -180 |
2016年 | フォーチュンリング | × | 1000 | -180 |
2016年 | エターナルソウル | × | 1200 | -360 |
2016年 | グヴィアズダ | × | 1200 | -360 |
2016年 | シップフォクィーン | × | 800 | -510 |
2016年 | フロリアヌス | ▲ | 800 | -540 |
2015年 | ファンタジステラ | ▲ | 3000 | 1214 |
2015年 | アースオブフェイム | △ | 2400 | 814 |
2015年 | ゴールドケープ | ◎ | 2000 | 664 |
2015年 | ルーチェミラコロ | × | 1500 | 394 |
2015年 | レーヌジャルダン | △ | 2800 | 314 |
2015年 | スィートグロリア | × | 1200 | 114 |
2015年 | リトルペンタス | × | 1200 | 114 |
2015年 | ロゼットブルー | × | 1400 | 14 |
2015年 | ハムレット | △ | 1400 | -36 |
2015年 | ファイヤーワークス | × | 1400 | -36 |
2015年 | カヴァレリア | △ | 1400 | -136 |
2015年 | アンデスクィーン | ○ | 1000 | -236 |
2015年 | ロンドジョワイユ | × | 1000 | -236 |
2015年 | アーチザスカイ | × | 1000 | -256 |
2015年 | ヴァベーネ | × | 800 | -286 |
2015年 | グリュックアウフ | × | 1000 | -286 |
2015年 | オーサム | × | 1000 | -386 |
2015年 | ヴァニラエッセンス | × | 800 | -536 |
2015年 | ドリームシャワー | □ | 1000 | -586 |
2014年 | セネッティ | ▲ | 3000 | 1258 |
2014年 | ウィングソルジャー | × | 2800 | 1008 |
2014年 | オープンユアアイズ | △ | 2400 | 858 |
2014年 | ディアスプマンテ | △ | 2000 | 458 |
2014年 | シェラヴェルデ | × | 1800 | 338 |
2014年 | ボーンレガシー | × | 1600 | 188 |
2014年 | トゥールエッフェル | ▲ | 1400 | 58 |
2014年 | グローリーミスト | △ | 1800 | 58 |
2014年 | エレンシア | × | 1600 | 58 |
2014年 | アランチャ | × | 1400 | -42 |
2014年 | カリアティード | △ | 1000 | -242 |
2014年 | エルメスショコラ | × | 1200 | -292 |
2014年 | シーザサン | × | 1000 | -342 |
2014年 | ボールライトニング | ◎ | 1500 | -392 |
2014年 | リュウキンカ | × | 1400 | -392 |
2014年 | ライトリーチューン | × | 1200 | -392 |
2014年 | レインボーフラッグ | ○ | 1200 | -442 |
2014年 | レヴェイヨン | × | 1400 | -492 |
2014年 | リスペクトアース | ◎ | 1000 | -792 |
2013年 | ディープフォルッア | × | 6000 | 3665 |
2013年 | ジュヒョウ | ▲ | 3000 | 1415 |
2013年 | サザナミ | ◎ | 2600 | 465 |
2013年 | ブランドベルグ | ○ | 2000 | 265 |
2013年 | マロンベル | × | 1800 | 265 |
2013年 | トゥルーストーリー | △ | 1500 | 215 |
2013年 | エアリーチューン | × | 1600 | 215 |
2013年 | フォルラーヌ | × | 1600 | 215 |
2013年 | ライプツィヒバトル | × | 1800 | 165 |
2013年 | デアリングアクト | × | 2000 | 165 |
2013年 | ルーチェスプマンテ | × | 1600 | -35 |
2013年 | レーヴシャルマン | × | 1400 | -135 |
2013年 | カイシンゲキ | × | 1200 | -165 |
2013年 | マキシマムドパリ | ◎ | 1400 | -235 |
2013年 | エクストラファイン | △ | 1200 | -235 |
2013年 | パラペーニョペパー | ○ | 1400 | -235 |
2013年 | エターナルカラー | × | 1200 | -235 |
2013年 | グリーンザナドゥ | × | 1400 | -235 |
2013年 | シンラバンショウ | △ | 1000 | -335 |
2013年 | カプリチオーソ | △ | 1200 | -335 |
2013年 | オレンジブーケ | × | 1000 | -335 |
2013年 | スーパールミナル | △ | 1200 | -435 |
2013年 | カフェラテ | × | 1200 | -435 |
2013年 | グリーンアモーレ | × | 0 | -1535 |
さて、前振りがメチャ長くなってしまいましたが、漸く材料が出揃いました。ここからは求めたプレミアム値と実際の競争成績の相関性について検証をして行きます。まず、グリーンファーム募集馬全体の競争成績を確認すると、準オープン以上:9頭、1000万条件:6頭、500万条件:21頭、未勝利:46頭、未確定32頭となります。以降、これを(9.6.21.46.32)と表記します。ここで、未確定馬はカウントに含めないとすれば、
準OP以上率 :11%
1000万以上率:18%
勝ち上がり率 :44%
となります。これがグリーンファーム募集馬の平均成績であり、評価上のベースラインとなります。
つぎに、募集馬のプレミアム分類毎の募集馬の競争成績を示します。集計した結果、プレミア馬(3.4.8.8.10)、ノーマル馬(0.1.8.18.13)、ディスカウント馬(6.1.5.20.9)となることから、各々以下の成績となります。
全体 プレミア ノーマル ディスカウント
準OP以上率 :11% 13% 0% 19%
1000万以上率:18% 30% 4% 22%
勝ち上がり率 :44% 65% 33% 38%
巷では「グリーンファーム募集馬は安馬ほど走る」と言った流言を聞くことがありますが、プレミア性の尺度を用いてこれを見ると、実態は少し違っていることが分かります。まず、プレミア馬は価格相応に結果を出していることが判ります。特に1000万条件を超える確率は高く、安定した成績を残していることが判ります。
そして、それに次いで良好な成績を残しているのがディスカウント馬です。勝ち上がり率こそ平均以下で、プレミア馬に大きく劣っていますが、準オープンまで上がる確率になるとプレミア馬を凌いでいます。これが「グリーンファーム募集馬は安馬ほど走る」と囁かれる所以であり、玉石混合の中から玉を見つけ出す力が問われることを意味します。
一方で、ノーマル馬の成績が明らかに劣っている傾向が見て取れます。この理由付けを無理やりに考えると、「生産者は出来の良い仔馬を判っているので、それは相応なプレミアムを乗せてクラブに卸している。一方で、難点のある仔馬はディスカウントしてクラブに卸しているが、成長とともに難点が解消され、化ける可能性が残っている。これらに対し、可もなく不可もないノーマル評価の仔馬は化ける伸び代も少ないため、結果的に成績が優れない。」と言った解釈も成り立つかもしれません。
冒頭で注意書きをした通り、本分析は統計的なサンプル数が絶対的に不足していますので、ヨタ話の域を出ないデータです。しかし、もし上記の結果を信頼するのであれば、グリーンファーム募集馬への出資を判断するに当って、次のような出資戦略が浮上してきます。
・1頭にだけ出資する場合は、プレミア馬から選ぶのが無難。
・ノーマル馬への出資は避けるべき。
・プレミア馬×1頭より、ディスカウント馬×2頭に出資した方が効率的
以上、かなり長くなりましたので、今回はここまでとし、次回は生産牧場と牡馬/牝馬の条件を加えた、より細分化した分析を実施する予定です。