前回まで、母と2代母の年齢が産駒の競争成績に与える影響について調べて来ましたが、今回は父の年齢と産駒の成績に付いて関係性を調べてみました。
1.出生時父年齢と収得賞金①
これまでの調査と同じく、現在の3歳~7歳馬で中央出走記録にある23,574頭の競争馬に付いて、出生時の父年齢毎と産駒の平均収得賞金の関係を調べた結果を以下に示します。
本結果を見ると、父の年齢が12歳から17歳の産駒の競争成績が優れている実態が明らかになります。これをテシオ理論に当てはめると、父の活性値が3~8の世代の成績が優れていることになり、「2回目の父の優勢期の産駒の成績が優れる」と言う結果を導きたくなるのですが、それは少々早計でしょう。
単純に「父が優勢期の産駒の成績が優れる」のであれば、父6歳~9歳の産駒の平均収得賞金についても高い結果が欲しいのですが、その様な結果は得られていません。
むしろ、上記の結果を支配する要因としては、前回も採り上げた「生存バイアス」の影響が無視できないと考えています。グラフ下段のヒストグラムを見ると、父8歳時の産駒数が最も多く、これはこの時期の種牡馬の数が多いことを示しています。
大半の種牡馬は6歳から7歳の時期に繁殖生活に入り、9歳から10の時期に産駒が最初の競争成績を記録します。その結果、初期の産駒が一定の競争成績を残せなかった種牡馬は、10歳から11歳の種付のタイミングで淘汰されることになります。
即ち、「父の年齢が12歳以上の産駒とは、種牡馬として一定レベルの成績を残た父馬の産駒」に絞り込まれており、産駒の競争成績の平均値は相対的に向上する結果になると考えられます。
言い換えれば、「父の年齢が11歳以下の産駒の父親は種牡馬能力として玉石混合の状況」であり、結果として競争成績の平均値は抑えられる結果になると推測することが出来ます。
2.出生時父年齢と収得賞金②
前述の推測を検証するために、ここでは収得賞金が500万円以上の産駒に限定して、父年齢と産駒の収得賞金の関係を調べてみます。未勝利馬を除外することは、能力の低い種牡馬の産駒を調査対象から除外することに繋がるものと考えます。
上記結果ではサンプル数が約1/10に減ったことで、データのバラツキが大きくなってしまいましたが、それを考慮しても父7歳時の産駒成績が著しくアップしていることは疑いありません。即ち、一定能力の成績が見込める種牡馬であれば、単に若年齢と言う理由だけで忌避する必要の無いことが判ります。
3.サンデーサイレンスの事例
ここでは種牡馬のライフサイクルを考察するために、大種牡馬サンデーサイレンスの年齢毎の産駒成績について振り返ります。
サンデーサイレンスの場合、初年度産駒から2歳チャンピオンのフジキセキを産出した様に、理想的な繁殖生活をスタートした種牡馬ですが、それでも父11歳時の産駒までは競争成績が低下しています。
フジキセキが朝日杯を勝利したのはサンデーサイレンスが8歳の時であり、その評価を受けて9歳の種付から繁殖の数と質が見直されたことで、父10歳の時点から産駒数が明らかに増加しています。
一方で、産駒の成績が明らかにアップするのは父12歳時の産駒からになります。このタイムラグについて明確な説明は出来ませんが、1つの解釈として、産駒数が増えたことで「配合上の成功パターン」や「産駒の育成上のツボ」が見いだされたことは考えられるでしょう。
なお、注意すべき点としては、サンデーサイレンスの8歳から12歳の産駒の成績は決して低迷している訳ではありません。この時期が成績の底であったことは事実ですが、冒頭のグラフと比較すれば遥かに優れた成績であることが判ります。
4.出生時父年齢と勝ち上がり率
今度は父年齢毎の産駒の勝ち上がり率について調べた結果を示します。
この結果を見ると、収得賞金のグラフと同様に父12歳~17歳の勝ち上がり率は高く、これは「生存バイアス」の効果が表れていると解釈することが出来ます。
しかし、ここで疑問として残るのは父年齢18歳から産駒の成績が急落している現象です。この低下現象は収得賞金と勝ち上がり率の両者で確認することが出来ますが、「生存バイアス」で説明の出来る現象ではありません。この現象は「父年齢が17歳頃をピークに、種牡馬も加齢と共に産駒の成績が低下する」ことを表していると考えるのが自然でしょう。
ここでテシオ理論的に考えると、「17歳と言う2回目のMAX活性期をピークに種牡馬の成績が低下する」と解釈することが可能です。単なる偶然として片づけることも出来ますが、テシオ理論の信奉者としては「やはり17歳は特別なタイミングである」とロマンを覚えるところです。また、ディープインパクトの誕生が父サンデーサイレンスの16歳時であったことも、「父年齢17歳頃に後継馬を産出する傾向性が高いこと」を裏付ると言えるかもしれません。
5.まとめ
今回の調査で見えて来た事象を以下にまとめます。
・父年齢12歳~17歳頃の産駒の競争成績が優れるが、これは父年齢以外の要素も含まれていると考えられる。
・父年齢18歳以降で産駒の成績が低迷することから、出資は避ける方が望ましい。
・優れた種牡馬は、若年期であっても産駒の成績は低迷しないことから、それだけを根拠に出資を避ける必要はない。
上記より、「父年齢12~17歳頃の産駒に出資すれば確実」と言う結論が得られますが、問題は「この時期の産駒は種付料が高額である蓋然性が高い」と言う点にあります。出資馬の選定に於いて回収率を重視するのであれば、父が若年の間に繁殖能力に優れた種牡馬を見出すことがより有用となるでしょう。