現在の出資馬の選定指針について、備忘録として整理するシリーズの第2回です。今回は出資馬の選定に置いて最も重要と考えている測尺について、その評価ポイントを考察します。(まとめページはこちら)
「測尺」は馬市でも一口馬主の募集でも必ず提示される、最もスタンダートな情報です。「必ず提示される」と言うことは「多くの人が重要と考えている」ことを示しており、自分もこれを最も重視しています。前回の「理論より現実」の項で触れた通り、自分は不確実な予測よりも現実を重視するスタンスを採っており、その「現実」の中で最も定量的で明確な情報が測尺であると考えています。
ここで、測尺には「馬体重・体高・胸囲・管囲」の4つの情報が含まれますが、その特徴は各々異なるもので、「大きければ大きいほど良い」と言う様な単純な話でありません。以下、これら4つのファクタについて、自分が重視している順番に考察します。
■胸囲
JRAによれば、馬の胸囲の測定とは「肩甲骨(けんこうこつ)の真後ろの胸の周囲を測る。帯道の部分。」とされています。一般に胸囲の部分は筋肉が少なく、主に肋骨の容積でそのサイズが決まります。そして、肋骨の中には競馬において重要な心肺機能を司る心臓と肺が収まっています。「胸囲が小さい→肋骨の容積が小さい→心肺が小さい→心肺機能に劣る」と考えれば、胸囲は大きい方が高い心肺能力が期待できることになります。
データソースを示すことは出来ないのですが、以前、一口馬主募集馬について募集時の測尺と競争成績を調査された方がいまして、自分はそのデータ基に再精査をしたのですが、4種の測尺情報の内で胸囲が最も勝ち上がり率と高い相関を示しました。特に胸囲については、「大きいほど良い」単純明快な傾向性を確認することが出来ました。これが、自分が胸囲を最も重視している根拠になっています。
参考までに、胸囲に対する現在の自分の評価基準は「176cmを超えていれば加点評価」と考えています。なお、胸囲は成長と共に大きくなる部位でもあり、遅生まれの馬についてはある程度の補正は必要かもしれません。
■管囲
2番目に自分が重視する測尺値が管囲です。JRAによれば、管囲とは「前脚の膝と、球節の中間の周囲」と説明されています。管囲の測定部位は骨と靭帯、腱で構成されており、「管囲は成長しても然して変わらない」と言われています。管囲の大きい馬は比例して全体の骨量も多いと考えられ、それだけ馬体が頑強になると考えられます。
また、競争馬の骨折の大半はこの部位で発生することから、「細い管囲の馬は故障リスクが高い」と想像されますが、これについては少し注意が必要です。一口馬主DBのサイトではこれについてのコラムが掲載されており、むしろ管囲の大きい馬の方が故障率の高い傾向が示されています。これは、故障の発生率は管囲のみに支配されるものではなく、馬体重の影響も併せて大きいことによるものです。要するに、「管囲が太いほど、支えられる馬体重は大きい」は事実ですが、許容体重を超えてしまえば管囲が太くても故障リスクは増大します。即ち、「管囲が細い=NG」ではなく、「故障については馬体重との関係で判断すべき」と言うことになります。
この故障の発生率と関係があるのか不明ですが、胸囲の項で示したデータを精査すると、管囲についても勝ち上がり率との相関性が確認されました。但し、胸囲の様な「大きければ大きいほど良い」ではなく、「細からず、太からずが良い」と言う、中間的な傾向になります。この結果を受けて、管囲に対する現在の自分の評価基準は「20cm~21cmの間を加点評価。19cm未満は出資対象外」としています。管囲<19cmの募集馬は明らかに勝ち上がり率が劣る上に、故障の発生率もあがるとなると、積極的に出資する理由が見つかりません。
最後に、管囲については測定誤差にも注意が必要と考えています。管囲は5mm単位で測定されることが多く、これはそれ以下の精度での測定が難しいことを示しています。「単純に18.5cmと19.0cmの違いで足切りして良いのか?」と言う疑問も残ることから、「複数回の測定結果を以て判断する」とか、「ある程度マージンを持たせる」と言った配慮は必要かもしれません。
■馬体重
一般的に測尺の中で最も注目される数値が馬体重でしょう。管囲とは反対に、成長と共に大きく数値が変化する点が特徴であり、成長具合を確認する為の指標として有用です。一方で、変化率が大きいと言う特性から、早生まれと遅生まれでは無視の出来ない差異が生じます。従って、募集時の馬体重から単純に評価を下すのは不適切であり、誕生日で補正する必要があります。これについては、一口馬主DBにて提供されるツールである「馬体重成長シミュレーション」が有用です。本ツールは馬体重の測定日と誕生日からデビュー時の馬体重を推測するもので、募集時の馬体重を用いて評価を下すよりも間違いなく優位であると考えます。
それでは、デビュー時の馬体重が何Kgあれば良いのでしょうか?この疑問に答えるために、直近3年間の新馬戦と未勝利戦の出走馬について、レース時の馬体重毎の勝率を調べました。青色が牡馬、赤色が牝馬。上段が馬体重毎の勝率、下段がそのサンプル数を表しています。明らかに馬体重と勝率の間に強い正相関のあることが見て取れます。
まず、牡馬について見ると、400~419Kgの馬の勝率が約4%に対し、460Kg以上の馬の勝率は8%を超えています。この2倍の差は決して無視できるものではありません。また、540Kg超で勝率が下がっている点が気になります。サンプル数が少ない(600弱)ことに拠るバラツキとも取れますが、過度な馬体重は故障リスクの増加も含めて避けた方が無難と思われます。
つぎに牝馬について見て行きます。真っ先に目に付くのが520Kg以上のデータが暴れている点ですが、これはサンプル数が極端に少ない(200弱)ことに拠るバラツキと考えられ、このクラスは無視して考えることにします。
サンプル分布を見ると、牡馬と比較して左寄りにピークがあり、牡馬よりも牝馬の方が馬体重は平均して40Kg近く軽いことを示しています。一方で、勝率については440Kgを超える付近から牡馬との勝率に差異が無くなる点に注目すべきです。特に480Kg~499Kgの馬体重では8%超の勝率を示していることは極めて有用です。また、440Kg未満の馬体重では牝馬の方が牡馬よりも高い勝率を示している点にも留意すべきです。
以上から、デビュー時の予測馬体重に対する自分の評価判断としては、以下の基準を設けています。
・牡馬は460Kg~539Kgを加点評価。420Kg未満は基本的にNG
・牝馬は440Kg以上を加点評価。400Kg未満は基本的にNG
・牝馬でも480Kg以上ならば積極的に狙う(安価ならば特に)
・軽量の牡馬は軽量の牝馬よりも避けるべき
■体高
胸囲の項で触れた調査データを自分流で分析した結果、体高と勝ち上がり率は一方的な相関関係に無く、154cm~156cmをピークに増えても減っても成績が下がる傾向が見られました。何れにしても、胸囲の様な分かり易い指標にはならないことから、自分は重用をしていません。体高が増えれば、馬体重も増える筈であり、馬体重をフォローすれば十分と考えています。
只、一つ有用と考えるのは脚質判断への利用です。「体高が大きい=脚が長い」と見えれば、脚質は中距離向きと推測されます。反対に「体高が小さい=短足」と見えれば、脚質は短距離向きと推測が可能です。