現在の出資馬の選定指針について、備忘録として整理するシリーズの第3回です。今回は出資馬の選定において最も目を引く駐立写真について、自分なりの見所を整理します。(まとめページはこちら)
駐立写真は出資馬の選定において一般的に重視される要素だと思います。「一目見て気に入った馬に出資する」と言うスタンスは普通に有りだと思いますし、直感に従うのは案外と正解だったりもします。これは恐らく、「見栄えのする馬は理想的な馬体をしている」ことの裏返しだと思いますが、これで片付けてしまうと感覚論で終わってしまうので、もう少し具体的に掘り下げてみます。
■評価対象
まず、駐立写真の評価に使用するのは、「募集馬カタログの写真(競りの上市時の写真)」と「募集動画の駐立状態を静止画で見る」の2つです。可能ならば、この両方の駐立写真はチェックをした方が良いでしょう。特に、カタログの写真はプロがベストな状態に磨かれた馬を撮影したものですから、対象馬の長所を確認するのに優れています。特に筋肉のメリハリを見る目的としてはカタログの写真が優れています。
一方で、動画の駐立写真は平時の状態が撮影されますので、カタログ写真との落差が大きい場合は、その原因を考えた方が良いかもしれません。ここで注意したいのは被写体とカメラが正対していること。対象馬とカメラの間に角度が付いてしまうと、バランスを正しく把握することが出来ません。具体的には撮影対象とカメラの距離を十分に空けて、望遠で撮影することで角度の影響を抑えることが出来るので、その様に撮影された動画を評価の対象とするべきです。スナップ的に撮影された動画等はこの辺りの配慮がされていませんから、バランスの確認には適切ではありません。(その意味で、DMMの動画は配慮が不十分なのでバランスの評価の上では注意が必要だと思っています。今後の改善を期待しています。)
■バランス
駐立写真を見る上で最も重要なのは全体的なバランスだと思います。ここで自分の場合、拙作の計測ツール(HoseScale)を用いて各部位の比率を産出することで、馬体のバランスを定量的に把握しています。(以下の計測サンプルには自分の共有馬ラストヴィグラスの上市時の駐立写真を用いました。)
まず、バランスを見る上で重要と考えているのが、胸:背中:トモの比率です。上記ツールでは胸幅/胴・背中/胴・腰幅/胴としてその比率を計算しています。この中で自分が重視するのが「トモの比率が高く、その分だけ背中の比率が小さい」ことです。「トモが約36%、背中が約33%」位のバランスが自分的には好みです。(注:胸幅/胴については後述します。)
特に募集時の駐立写真からデビューまでの成長期間に背中は伸びる傾向がありますから、募集時点では背中が短い方が安心と考えています。
次に注意したいのが胴と体高のバランスです。上記ツールでは胴/体高として測定していますが、これが大きいほど胴長、小さいほどスクエアな体型となります。スクエアな体型の馬は脚の長い傾向があり、自分の場合は100%~105%位が好みです。これは前述の成長期に背中が伸びる話と同じで、募集時は105%未満の方が、成長して110%位の良い所に落ち着くと考えています。
これらは1.はじめにで説明した、自分は「中距離を走れる馬を前提に選定すること」と関係があります。中距離馬を選定するためには「胴長短足の短距離馬を避ける」ことが有用であり、募集時から横長のシルエットの馬は避ける様にしています。(上記サンプルのラストヴィグラスは募集時から胴長傾向で、脚も短目に見えますから、脚質は短距離になりました。当時は胴長でも気にしてませんでした。)
バランスの最後の見所は「肩の角度」です。肩の角度は測り方によって振れ幅が大きいので、自己流の測定法を確立することが重要です。その上で、自分は肩の角度が小さい馬(肩が寝た馬)を選ぶ様にしています。肩の角度が小さいことは前肢がより前方に振り出せることを意味しており、ストライドが広くなり、距離適性が長くなることが期待できます。ちなみに、角度を見る代わりに「胸幅/胴の比率を見る」と言う方法も考えられます。「胸幅/胴が大きい=肩の角度が小さい」と言えますので、自分は胸幅/胴が30%前後あることを目安としています。
■筋肉
バランスと併せて、駐立写真を見て確認したいのが筋肉です。一口に馬の筋肉と言っても多種多様で何処を見れば良いのか悩んでしまうのですが、自分の場合は割り切ってトモの筋肉に着目しています。
上のリンクはNHKが子供用に公開している動画ですが、トモの筋肉の動きを理解する上で学びが多いです。この動画とJRAが公開している下記の筋肉の図を見ると、トモを引き付ける為に重要な役割を果たす筋肉が25:中殿筋、トモを蹴り出す動きに重要な役割を果たす筋肉が23:半腱半膜様筋と22:大腿二頭様筋であることが判ります。
そこで、自分の場合は特に中殿筋に着目します。これはトモを引き付ける速度が脚の回転速度に繋がると考えているためです。
具体的には上の写真の黄色い丸で囲んだ部位の張り出しを見ます。ここに明らかな隆起の認められる馬は高評価する様にしています。もっとも、筋肉の発達は育成によるトレーニングでも進みますから、募集時点で発達していることが必須とも言えません。只、鍛えがいのある筋肉か、トレーニングを積んでも筋肉が増えない体質なのかは、見極めたいところです。そう言う意味で、十分ではなくても募集時から筋肉質な体質が伺われる馬を選んだ方がリスクヘッジになると考えています。(注:ムキムキである必要はありませんが、ブヨブヨはNGです。)
また、後々のトレーニングで筋肉を強化する前提としても、肝心な筋肉の付くスペースが体型的に確保されていることは重要です。その点で、上の写真に黄色い線で示した様に斜めな線が引けることに注目しています。この線が鉛直になるほどトモ幅が狭く、「中殿筋の発達するスペースが少ない」と考えています。
最後に、芦毛馬についてです。芦毛の馬は光線の反射の問題なのか。駐立写真をみても筋肉の凹凸がハッキリと確認ができません。その分だけ、割り増しして評価するか、心の眼で見極める(謎)必要がありますが、何れにしても芦毛馬の評価は他の毛色馬に比べて難易度が高いと思います。リスクヘッジとして「芦毛馬には出資しない」と割り切ってしまうのも、一つの選択かもしれません。
只、横からの写真で中殿筋の発達が判断出来ないときに、下の写真の様なバックショットの黄色く囲った部分の角ばり方を見る方法はあります。中殿筋が発達すると、トモの上部が盛り上がりますので、結果的に後方からのシルエットで上角の半径が小さくなると考えられます。これだけで充分は判断は出来ませんが、補完材料としては有用ですし、芦毛馬であっても利用が可能です。
■膝と飛節
続いて脚の関節についてです。前肢ならば膝、後肢ならば飛節ですが、両者の評価の意味合いは大きく異なります。まずは膝ですが、これは競争馬の故障と密接な関係があるとされています。特に膝の位置が球節よりも後ろに来る湾膝(弓脚)は故障の要因になると考えられ、注意を要します。湾膝の馬が必ずしも故障するとは限りませんが、愛馬の故障は馬主のメンタルに響きますので、個人的に危うい膝には近づかない様にしています。具体的には先の馬体計測ツールで「前腕と管の角度」がマイナス値を取る馬は、出資候補から除外をしています。
一方、飛節に関しては故障との関係性は薄く、脚質への関係が大きいと考えられます。一般に下腿と管の角度が直線状になるのが直飛、くの字に折れるのが曲飛です。直飛はストライドが伸びることで走りの効率が良く「距離適性が長い」と判断され、曲飛は脚が伸びない分だけ取り回しが楽で回転速度があがり、「瞬発力が増す」と言われています。
個人的には「中距離馬を選んで出資する」の方針から、「直飛の方が望ましい」と考えられるのですが、駐立写真が曲飛の馬であっても、動かして飛節の伸びる関節の柔らかい馬であれば、必ずしも出資候補から外す必要はありません。むしろ、曲飛にも関わらず飛節の伸びる馬の方が理想的かもしれません。
■顔
最近になって出資判断の材料に加えたのが顔です。これまでは顔が競争能力に関係するとは考えていませんでしたが、大馬主と言われる方々の「この馬は顔で選びました」的なコメントを散見するにつけて、「顔を無視して考えるのは勿体ないのではないか」と考えるに至りました。
ここで自分の考えるポイントは対象馬の気性です。競争馬である以上、「他馬と競り合った時に引いてしまう気持ちの弱い馬」では大成は難しく、かと言って「人間との信頼関係を築けない馬」では競馬に出ることすら出来ません。狂気を孕むのはNGですが、大人しく気弱な馬でも上手くありません。
馬の顔から受ける印象には「賢い」「怖い」「優しい」等があると思いますが、この中で「優しい」は評価を下げた方が良いかもしれません。一方で、三白眼は「怖い」印象を与えるために避けられる傾向がありますが、自分は三白眼であっても評価は下げていません。出来れば様子見をすることで、トレーニングを問題なく積めることが確認できれば、三白眼はプラス評価して良いとすら考えています。