現在の出資馬の選定指針について、備忘録として整理するシリーズの第5回です。前回までは募集馬に対する直接的な評価について整理してきましたが、今回と次回は間接的な環境について考えます。先ずは牧場に関して整理します(まとめページはこちら)
一口に牧場と言っても、競争馬が生まれてから競馬に向かうまでには、複数の種類の牧場と関わることになります。出資馬を決定する前に、その仔馬が何処で生産され、何処で育成され、何処の外厩が使用できるのか、確認をしておくことは不可欠と言えます。以下、それらについて順に考えて行きます。
■生産牧場
母馬が種付けられ、仔馬が誕生し、母と離れて独り立ちする、0歳~1歳の機関の管理を担う牧場です。あまり競争能力とは関係ない様に思えますが、そのベースとなる健康・体質・気性を築く段階として大きな意味を有しています。基本的に経験値の高い牧場であることが望ましく、その点でノーザンFと社台Fの能力は突出しています。これに、活躍馬を輩出し続けている老舗の牧場が続くと考えて良いでしょう。例えば、レイクヴィラ・下河辺・三島・千代田、等の牧場がそれに該当します。
なお、生産牧場と育成牧場~外厩までが連携しているケースもありますので、その場合はセットで評価する必要があります。
■育成牧場
独り立ちした仔馬を競争馬として厩舎に引き渡すまでのプロセスを担う牧場です。人を乗せて走る基本を教え込む馴致から始まって、体を鍛え、効率的な走り方を教える調教を行います。幼年期から馬体の基礎を作ることは、将来の競争能力に与える影響が大きく、競争馬としての後天的な能力への影響が最も大きい期間と言えます。
そう言う意味で、育成牧場が利用するトレーニング環境は極めて重要な意味を持ちます。特に留意すべきなのは坂路コースの有無で、十分な斜度と距離のある自前の坂路コースを有する育成牧場は大きなアドバンテージを持つことになります。その意味で、降雪期でも坂路調教の行える、屋根付き坂路コースを有するノーザンFが最も優れた育成環境と考えられます。
そして、屋根こそありませんが十分な坂路コースを新設した社台Fがこれに続きます。近年の社台生産馬の復活劇は、この坂路コースの新設と密接な関係があると考えて良いでしょう。
また、社台系以外にもファンタストクラブやエクワインレーシングなど、自前の坂路コースを有する育成牧場は存在しており、これらは評価を上げて良いと思います。
一方で、自前の調教環境を用意できない小規模の育成牧場は、JRAが設立したBTCの施設を利用することになります。BTCの坂路はやや斜度が緩目で負荷が掛かり難い点と、自前のコースを有する牧場と比較すると、どうしても乗り込み本数が少なくなる傾向があり、評価は1ランク下げる必要があると思います。
但し、育成牧場によってもBTCの利用頻度には差がありますので、この辺りは過去の育成状況を調べておくのが良いと思います。特に厳冬期になると、牧場とBTCの距離が離れているほど利用が困難になり、利用頻度への影響がある様です。
■外厩
外厩とは入厩を果たした競争馬が、厩舎の馬房の都合で外に出される時の預託先牧場です。近年の競馬では、競争馬が厩舎にいる時間よりも外厩にいる時間の方が長く、レースに向けての仕上げも、8割方は外厩で行われています。
即ち、競争馬としての成績を左右するファクターとして、外厩は極めて大きな存在になります。当然、設備の整った優良な外厩を利用できる馬と、そうでない馬の間には如実な差異が生じることになります。
ここで設備の整った優良な外厩としては、ノーザンF育成馬が利用するノーザンF天栄・ノーザンFしがらき、社台F生産馬が利用する山元トレセンが突出した存在です。ここでもノーザンFが有利な環境を自前で整えていることが判ります。
これに対し、社台F生産馬で関東馬は山元トレセンを利用できますが、関西には自前の外厩が存在せず、グリーンウッドTなどの外厩を利用することになり、若干のビハインドを負うことになります。
一方で、近年は関西地方にノーザンFにも負けないトレーニング環境を有するチャンピオンヒルズが開場しており、非社台系育成馬であっても、ここを利用できるか否かは大きな違いとなっています。チャンピオンヒルズの利用の可否は所属厩舎に依る部分が大きく、チャンピオンヒルズを重用する調教師さんであるか否かは確認しておく必要があります。なお、チャンピオンFの生産・育成馬は、成長してチャンピオンヒルズを利用する可能性が高く、一つの差別化になります。