現在の出資馬の選定指針について、備忘録として整理するシリーズの第6回です。前回は募集馬に対する間接的な要素である牧場の評価について検討を行いました。今回は、もう1つの重要な間接要素である厩舎の評価について整理します。(まとめページはこちら)
募集馬の選定において最も重視すべきことは、「目の前の馬そのものを見て評価すること」と記して来ましたが、競馬が人馬で行われる興行である以上、人間側の最たる要素である厩舎の存在は軽く扱うことは出来ません。どんなに素晴らしい募集馬であっても、管理する厩舎のレベルがその能力に見合わなければ、本来のポテンシャルを引き出すことが出来ません。現実に、スクリーンヒーローとモーリスの親子は、何れも転厩を契機に重賞勝ちの出来る馬に変貌しており、前厩舎に留まり続けていたら、その能力も埋もれていた可能性は高いと思います。厩舎については馬と同等のプライオリティを以て、評価することが必要と考えています。
■自分との相性
厩舎に関して最も重要なことは自分との相性だと思います。主観的になりますが、自分の考えと方向性の合致する運用をしてくれる厩舎を選ぶことが、ストレスなく一口馬主を楽しむ大きなファクターだと思います。好き嫌いに正解も不正解もありませんから、自分が合わないと感じたら、その厩舎への預託馬には出資しないことが肝要です。無理に出資してもストレスの源泉になるだけです。言い換えれば、世間の評判に左右されず、自分の経験から判断をすべきとも思います。
ちなみに自分の場合は、過去の出資経験から「二度と出資しないNG厩舎」と「馬が余程良く見えない限りは出資しない準NG厩舎」を決めています。
■厩舎リーディング
客観的な厩舎の評価として、最もシンプルな指標は厩舎リーディングです。ザックリと「1位~20位、20位~50位、50~80位、80位以下」の様な感じで、ランク付けしても良いと思います。
トップ20に入る厩舎は、重賞を勝てるだけの十分な経験値を有する厩舎です。重賞を狙う前提で出資馬を選ぶのであれば、リーディングがトップクラスの厩舎に預託されることを条件とすべきです。上位の厩舎ほど、能力不足の馬に対する放置リスクが懸念されますが、そこは自分の相馬眼の誤りを反省するよりありません。
トップクラスの厩舎と下位の厩舎の大きな違いは管理能力の差だと思います。馬を仕上げる技能だけではトップに立つことは出来ません。優れた調教師は一般企業の経営者と同様、技術力以上に、組織と人間を管理する能力に長けています。自らが行うべきことと、(外厩を含めて)スタッフに任せることを切り分けることで、多数の能力馬で結果を出すことが可能になります。
反対に、「未勝利を脱出して1勝クラスで勝ち負けすることを目標とした出資馬」であれば、上位厩舎は避けた方が無難でしょう。能力がワンパンチ足りない馬を勝ち上がらせることに長けた厩舎とリーディング上位の厩舎は必ずしも同じではありません。出資馬の目標クラスと預託先厩舎の特性がマッチした募集馬を選ぶことが肝要であると思います。
また、これは難しい話ですが、厩舎によって「芝が得意」or「ダートが得意」とか、「短距離馬が得意」or「中長距離馬が得意」と言った得手不得手が存在します。そして、この得手不得手の傾向は一口馬主DBでも確認することが可能です。もし、募集馬の脚質が想定出来るのであれば、それと厩舎の特徴が合致しているかを確認することは有用です。
最後に、リーディングに関してもう一つ。リーディング上位でも順位が下降傾向の厩舎は、「有能なスタッフが退厩した」とか、「有力馬主が離反した」などのネガティブな状況を抱えている可能性があります。著しい変化が認められる場合は、注意が必要かもしれません。反対に、「順位を上げつつある若手厩舎」や、「順位がV字回復中の厩舎」はリーディング下位であっても逆張りを狙う価値があるかもしれません。
■クラブ馬回収率
一口馬主DBが提供する「厩舎徹底分析」には、多数の有力情報がまとめられていますが、中でも自分が重視している指標が「クラブ馬回収率」です。この指標は全厩舎平均が130%前後ですので、基本的に平均値を超える厩舎(140%超)を狙いたいところです。
ちなみに、「クラブ馬回収率」とは「償却済み募集金額に対する馬主向け全獲得金の比率」であり、ここに維持コストは含まれていません。即ち、「クラブ馬回収率」が100%を超えていてもトータルリターンが黒字化する訳ではありません。むしろ、100%前後では大きな赤字と考る必要があります。
なお、前述の「厩舎リーディング」と「クラブ馬回収率」は必ずしも相関しません。リーディング下位でも「クラブ馬回収率」の良好な厩舎は、安価な募集馬の預託先として理想的な存在と考えられます。
■クラブ馬勝ち上がり率
つぎに「勝ち上がり率」に関して考察します。出資馬の最初の目標は未勝利戦を勝ち上がることですから、「勝ち上がり率」が高いことは預託先厩舎としての安定性に直結します。ここで、一口馬主DBでは、一般的な「勝ち上がり率」の他に「全クラブを通算したクラブ馬の勝ち上がり率」を知ることが出来ます。以下、後者については「クラブ馬勝ち上がり率」と略しますが、自分が重視しているのはこの「クラブ馬勝ち上がり率」です。
リーディング下位の厩舎は総じて「勝ち上がり率」が低迷しますが、「クラブ馬勝ち上がり率」は必ずしもリーディング順位と相関しません。これは想像含みですが、厩舎リーディングが低迷する原因が「預託される馬質が低いこと」にあり、厩舎の技術力以外の政治力や営業力が反映されている可能性があります。
これに対し、クラブからの預託馬の馬質は一定水準が確保されているとすれば、「クラブ馬勝ち上がり率」の方が全体の「勝ち上がり率」よりも高くなる余地が生じます。「良い馬質の競争馬さえ預託されれば結果の出せる厩舎」であれば、「クラブ馬勝ち上がり率は高く出るはず」と言う理屈です。そこで個人的な評価ラインですが、「クラブ馬勝ち上がり率」が45%前後を超えるか否かに注目しています。
(補足)馬質の差を除いて厩舎成績の評価する指標として、一口馬主DBには「AEI/CPI」の指標が用意されています。この指数が1を超えるほど能力の高い厩舎と言うことになる筈ですが、個人的にはしっくり来ないことが多く、それよりも「クラブ馬勝ち上がり率」を参照した方が有用であると考えています。
■馬房あたりの頭数
一口馬主を趣味としてとらえる上で、特に重要なことは「預託馬がレースに数多く出走すること」です。厩舎毎に、1頭の馬が1年間に平均何回出走させて貰えるのか、この指標を一口馬主DBでは「平均出走回数」として提示してくれています。
そしてもう1つ、自分が「平均出走回数」以上に重要視しているのが「馬房あたり頭数」です。管理馬房数に対して預託馬を抱え過ぎている厩舎は必然的に外厩を多用することを迫られますから、仮に優先出走権を確保しても続戦出来ない可能性も出て来ます。言い換えれば、「馬房あたり頭数」の多い厩舎ほど、預託馬にとってベストのレースに使って貰えない可能性が高まります。
「馬房あたり頭数」が多いにも関わらず「平均出走回数」が低くない厩舎と言うのは、「外厩と厩舎を往復させて、単に馬を走らせているだけの厩舎」である可能性があり、これが自分が「平均出走回数」よりも「馬房あたり頭数」を重視する理由です。
ここで、「馬房あたり頭数」の全厩舎平均値は2.9に対し、自分は3.4付近を厩舎を評価する上での上限値として考えています。この数字を超えて行くほど、外厩放置や転厩と言った状況の発生する蓋然性が高まります。
ちなみに、トップ厩舎の中にも「馬房あたり頭数」が平均値以下の厩舎は存在します。このカテゴリの厩舎は、所謂、少数精鋭を旨とする厩舎であると考えられ、1頭1頭をシッカリと管理して成績に繋げていることになり、非常に好感が持てる存在です。特に高額募集馬を預けるのであれば、この様な厩舎に預けたいものです。(例えば、国枝厩舎・堀厩舎・池江厩舎などがこれに当たります。)
■起用騎手
預託先厩舎に依って起用騎手は大きく左右されます。リーディング上位の厩舎ほど、トップジョッキーや外国人騎手の騎乗率が上がることは間違いありません。反対に、リーディング下位の厩舎ほど、上位騎手の騎乗期間が減る傾向がみられ、極端な場合、実力に疑問符の付く騎手を偏重して起用する厩舎すら存在します。
この様な厩舎毎の騎手の起用状況も一口馬主DBでは確認することが可能です。自分の場合、起用騎手の評価には「上位騎手と外国人騎手を合計した起用率」を用いています。この合計割合が50%を超えれば問題なしで、50%を大きく下回る場合は要注意と考えています。
■情報発信
一口馬主を楽しむ上で、情報発信量の多い厩舎ほど満足度が高まることは間違いありません。個人的には近況よりも、今後の予定を明確に示す厩舎が好ましいのですが、この辺りは個々人の好みに依るところが大きくなります。
何れにしても、これらの要素は定量化が不可能ですし、何より一度は出資馬を管理して貰うまで実態は把握出来ません。そう言う意味で、NG厩舎の裏返しとして、自分と好相性の厩舎に出会うことが出来たならば、それをプラス評価すれば良いと思います。